内分泌代謝疾患

●本態性高血圧と二次性高血圧
 日本人の高血圧患者数は約4,300万人と推定されています。高血圧の多くはその原因が特定できない本態性高血圧ですが、約10%は原因が特定できる二次性高血圧と言われています。その中でも、特定のホルモンが過剰になることで血圧が上昇する「内分泌性高血圧」は、原因の治療によって高血圧の治癒も可能な場合がある一方で、診断の遅れが合併症につながってしまうこともあり、早期診断と治療が重要とされています。内分泌性高血圧の代表格は、原発性アルドステロン症で、高血圧の5~10%を占めるとされています。
原発性アルドステロン症の位置づけ
●原発性アルドステロン症とは?
 原発性アルドステロン症は、アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されることで高血圧が引き起こされる病気です。アルドステロンは、副腎(腎臓の上にある小さな臓器)から分泌されるホルモンで、水分や塩分の調整を行う働きがありますが、過剰になると高血圧を引き起こします。副腎にできた腫瘍が原因で過剰になる場合や、副腎全体からアルドステロンが過剰に作られる場合があります。原発性アルドステロン症には次に示す2つの特徴があります。
特徴①:合併症になりやすい高血圧です
 高血圧は、治療を行わないと血管や臓器を傷め、脳卒中や心臓病、腎臓病など、別の病気(合併症)を引き起こします。原発性アルドステロン症の場合も高血圧になるため、これらの合併症になり得ますが、過剰なアルドステロンそのものが、血管や臓器にダメージを与えるため、通常の高血圧(本態性高血圧)よりも合併症になる割合が高いと言われています。
合併症を引き起こした割合
特徴②:本態性高血圧とは治療内容が違います
 副腎からアルドステロンが過剰に分泌されることで、血圧が上昇する原発性アルドステロン症では、アルドステロンを正常にすることで血圧が改善すると考えられます。人体には左右に合計2つの副腎があり、どちらか片方の副腎からアルドステロンが過剰に分泌されている場合は、その副腎を摘出することで、血圧が改善することがあります(片側性病変:手術で治療するタイプ)。両方の副腎から過剰に分泌されている場合は、アルドステロンの作用を抑える薬で治療を行います(両側性病変:薬で治療するタイプ)。このように、血圧を下げる薬(降圧剤)で血圧をコントロールする本態性高血圧とは、違った治療を行うことになります。
トップへ戻る
●原発性アルドステロン症の診療の流れ
 原発性アルドステロン症の診断は、簡単な血液検査から始まります。初めて高血圧と診断された方はもちろん、すでに治療中の方も、原発性アルドステロン症である可能性があります。一度、検査を受けることをお勧めします。
Step1 まずは血液検査でチェック
 はじめに血液検査を行います。原発性アルドステロン症は多くの場合、高血圧以外の症状がありません。このため、この病気が疑わしいかどうかは調べてみないと分かりません。
疑わしいかどうかの検査:ARR測定
 ARR(アルドステロン・レニン比)という値を算出します。ARRが200以上の場合は原発性アルドステロン症の疑いがあります。高血圧の薬をすでに服用中の場合、検査の前に内服の変更が必要になることがあります。受診の際にお薬の内容が分かるものをお持ちください。
Step2 原発性アルドステロン症が疑われたら
 血液検査で異常があった場合は、原発性アルドステロン症の疑いがあります。この場合は専門医療機関で検査を行い、原発性アルドステロン症かどうか確定診断を行います。
確定診断のための検査:負荷試験
 負荷試験を実施します。負荷試験とは薬剤を投与したときのホルモンの反応を見る検査です。負荷試験には下記のようなものがあり、これらを組み合わせて診断します。また、副腎の異常の有無を腹部CTで検査します。負荷試験が1つ以上陽性の場合は、原発性アルドステロン症と診断して、次のステップへ進みます。
●カプトプリル負荷試験 ●立位フロセミド負荷試験 など
Step3 原発性アルドステロン症だった場合
 原発性アルドステロン症と診断された場合は、治療方針(手術か内服か)を決める必要があります。また、手術を希望する、希望しないなど、皆さんの思いもあると思います。治療方針は、検査の結果や病状だけでなく皆さんの思いも加えて最終決定しますので、主治医とよく相談してください。
治療方針決定のための検査:腹部造影CTなど
 原発性アルドステロン症と診断されても、手術の適応かどうかは分かりません。手術を希望される場合は、腹部造影CTを行ったうえで副腎静脈サンプリングという検査を入院(2泊3日)で行い、手術適応を確認します。手術適応は「片側性」の場合となります。「両側性」の場合や手術を希望しない場合には、内服による抗アルドステロン治療を行います。
●原発性アルドステロン症の手術による治療
腹腔鏡下副腎摘出術
 片側性の原発性アルドステロン症であると診断された場合は、腹腔鏡下副腎摘出術によって、副腎を摘出します。腹腔鏡下手術とは、腹部に4箇所の小さな穴を開け、そこから腹腔鏡(棒状のカメラ)と手術器具を入れて、モニター画面を見ながら行う手術です。傷が小さく術後の痛みが少ない、入院期間が短い等の優れた点があります。
副腎の一と腹腔鏡・手術器具挿入箇所
●原発性アルドステロン症の手術以外の治療
 両方の副腎からアルドステロンが過剰に分泌されている場合(両側性病変)、両方を摘出することはできないため、内服治療になります。また、片側性でも手術を希望されない場合は内服治療となり、過剰なアルドステロンの作用を抑える薬剤(アルドステロン拮抗薬)を使用します。
 内服治療は、原則生涯にわたって続ける必要があります。薬によってコントロールするということで、血圧とアルドステロンの正常な状態を維持することができて初めて効果があります。また、アルドステロン拮抗薬のみでは血圧のコントロールができないこともあり、他の降圧剤を併用することがあります。
トップへ戻る
●原発性アルドステロン症の診療・検査・手術の体制
【診療】・・・ 内分泌代謝内科医
 診療については、内分泌代謝内科の医師が中核を担います。原発性アルドステロン症だけでなく、糖尿病・甲状腺など内分泌代謝疾患を広く診療しています。


臼倉 幹哉(うすくら みきや)
内科次長
日本内分泌学会
内分泌代謝科専門医・指導医


若山 綾子(わかやま あやこ)
内科部長
日本内分泌学会
内分泌代謝科専門医
【検査】・・・ 内分泌代謝内科医 & 放射線科医
 検査については、内分泌代謝内科と放射線科の医師が協働して行います。
【手術】・・・ 外科医 & 泌尿器科医
 手術(腹腔鏡下副腎摘出術)については、外科と泌尿器科の医師が協働して行います。
●かかりつけ病医院と連携した診療
 継続した診療、経過観察については、かかりつけ病医院と連携して行います。
トップへ戻る